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広島高等裁判所 昭和39年(ネ)67号 判決

控訴人 山陽融資株式会社

右訴訟代理人弁護士 由井健之助

被控訴人 岡島一二三

同 岡島キクノ

同 岡島光子

右三名訴訟代理人弁護士 三宅仙太郎

右当事者間の昭和三九年(ネ)第六七号詐害行為取消控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

請求の減縮により、原判決は左のとおり変更された。訴外花咲博が訴外日本専売公社に対する、塩業整備臨時措置法に基く塩田転用費二二九万八、五九〇円および推定所得保障金一九二万二、五四〇円につき、訴外花咲博から控訴人に対してなした昭和三五年一月一八日付債権譲渡行為は、右塩田転用費全額および推定所得保障金一三八万八、四〇〇円の限度において、これを取り消す。

訴訟費用は第一・二審を通じてこれを八分し、その一を被控訴人ら三名の、その七を控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取り消す、被控訴人らの請求を棄却する、訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする、との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めたが、当審で請求を主文第二項のとおり減縮した。

当事者双方の事実上の陳述ならびに証拠関係は、左記のほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

被控訴代理人において、被控訴人らが訴外花咲博に対して有する債権額は、本件詐害行為成立の日(本件債権譲渡の日)である昭和三五年一月八日現在において貸付元本二五七万四千円のほか、弁済期日の翌日たる昭和三三年七月三一日から右昭和三五年一月八日までの約定利率年三割の割合による遅延損害金債権一一一万二、九九〇円、合計金三六八万六、九九〇円となるので、本件債権譲渡行為のうち、塩田転用費二二九万八、五九〇円および推定所得保障金一九二万二、五四〇円のうち一三八万八、四〇〇円の限度において各詐害行為としてこれが取消を求める、と述べ、

控訴代理人において、訴外花咲博が本件塩田転用費および推定所得保障金(以下交付金という)を受ける対象となった塩田三筆については、既に控訴会社が昭和三三年九月八日付競落許可決定により所有権を取得し、同年一二月二五日その旨の登記を了したから、交付金は実質上控訴会社においてこれが支給を受くべきところ、たまたま右訴外人が訴外尾道塩業組合の組合員であったので、同人が交付金の請求権者となったにすぎない。控訴会社は右訴外人に対する貸金回収のために、交付金請求権を差し押え転付命令を得てこれを取得する代りに、本件債権の譲渡を受けたものであるから、控訴会社に詐害の意思はない。そして控訴会社は交付金全額四二二万二、一三〇円を受領したが、推定所得保障金のうち一〇〇万円は前記訴外人に返還した残額三二二万二、一三〇円を同人に対する債権の弁済に充当した、と述べた。

証拠〈省略〉

理由

当裁判所も被控訴人の本訴請求を正当と認めるが、その理由は左に附加するほか、原判決の理由を引用する。

控訴人は、本件交付金は、実質上控訴人が受くべきものであった、と主張するけれども、塩業整備臨時措置法(昭和三四年法律第八一号)第二条ないし第四条によれば、塩またはかん水製造業者が所定の要件のもとにこれを廃止した場合に、その者に対し交付金が支給されることになっており、塩田を所有すると否とは、交付金の受給資格に関係のないことが明らかであるところ、当審証人佐伯昇の証言によれば、訴外花咲博は尾道塩業組合の組合員としてかん水の製造に従事していた組合員であって、交付金は組合員に限り支給されるもので、塩田を所有するだけでは組合員の資格がないことが認められるから(なお塩業組合法第六条参照)、交付金の受給資格は訴外花咲博にあって控訴会社にはないものといわねばならぬ。

そして原審証人花咲博、当審証人清水友一の証言によると、原審認定の如き事情で訴外花咲博が大阪に転住した後、控訴会社の従業員訴外清水友一は会社の代理人として右花咲を訪ねて同人の控訴会社に対する債務の弁済のため交付金請求債権の譲渡を求める交渉をしたところ、花咲は子供の養育費や他の借財の支払もあるので、右金員のうちから一〇〇万円を留保しておく必要があるといって、全額の譲渡を肯んじなかったので、清水もこれを諒承した結果、右債権全額を控訴会社に譲渡し、会社がその交付を受けた後一〇〇万円を花咲に支払う旨の約定が成立したことを認めることができる。

これらの事情を総合すれば、控訴会社は交付金が実質上会社に帰属すべきものとして、本件債権譲渡を受けたものではなく、右訴外人には交付金のほかには他に弁済資力がないから、同人と交渉してこれが債権譲渡を受けたものと認めるのを相当とし、他に右認定を左右するに足る資料は存しない。また右清水友一は、他に債権者がないと思っていたので詐害の意思はなかった旨証言するけれども、同人の他の証言部分と対比して措信し難く、他に控訴会社に詐害の意思がなかったことを確認するに足る証拠はない。

そうだとすれば、控訴会社が昭和三五年一月八日訴外花咲博から交付金請求債権の譲渡を受けた行為は、詐害行為としてこれが取消を免れないところ、取消の範囲は詐害行為当時の被控訴人らの債権額を標準としてこれを決定すべきである。被控訴人ら先代岡島政太郎は昭和三三年五月二九日右訴外人に対し、金二五七万四千円を弁済期同年七月三〇日、期限後の遅延損害金年三割の約定で貸与したのであるから、本件債権譲渡当時における元本および遅延損害金債権の合計が金三六八万六、九九〇円となるところ、該債権を保全するため、前記転用費金二二九万八、五九〇円および推定所得保障金のうち金一三八万八、四〇〇円の限度において、これら債権譲渡行為の取消を求める被控訴人らの請求は理由がある。

よって右の限度に減縮した被控訴人の請求は全部これを認容すべく、したがって本件控訴は棄却を免れないが、原判決は右減縮の限度に変更されたものというべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、九二条九三条に従い主文のとおり判決する。

〈以下省略〉。

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